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 きょろちゃん 

kyoro

オカメインコという鳥が、我が家で座敷牢を1つあてがわれている。本名もきちんとあるのだが、情けない名前をつけてしまったため、数あるニックネームの1つ、「きょろちゃん」と呼んでおく。この方が少しは聞こえがいい。

私がお腹を痛めて産まなかっただけで、だれが何と言おうが、れっきとした我が子である。お父さんと私の区別がちゃんとつく。この2人とそのほかの人との区別もできる。

ふだん近所のチビどもが騒ぐと、いっしょになって騒いで怒られるのに、私がカゼをひいて寝込んだりすると、頭をかしげ、顔の真横についている片目でいつまでも黙って見下ろしている。

きょろちゃんとの出会いは8年ほど前の秋だ。職安で失業保険の手続きをした帰り、何気なく立ち寄ったペットショップにいたのをかどわかして来た。

カブトムシの幼虫を飼う大きな水槽の底に、セキセイインコのひながひしめき合っていたのだが、羽の生えかかった水色や緑色の毛だるまの中から、オレンジ色のほっぺたをしたオカメインコの黄色い頭が1つだけ飛び出て、まん丸の黒い瞳がじっと私を見つめていた。頭の中に「ぼくを連れて行っておくれ」という声が響いたあとのことは覚えていない。気がつくと空気穴の開いた、暖かな箱を抱えて家路を急いでいた。

ご飯を食べさせてくれる人を親だと思うのか、そばを離れる私のあとをよちよちとついて来た。ヒトの体温が恋しいとみえて、眠る時は必ず私の体のどこかへ身を寄せていたので、エプロンをウエストポーチのように改造し、お母さんカンガルーよろしくその中に入れておいたら、安心し切って魂が抜けたように眠っていた。まだ卵の殻に包まれていたころに聴いた、親鳥の心臓の鼓動がよみがえっていたのではないかと想像している。

そんなふうに甘やかして育ててしまったため、私がいないとご飯も食べなければ、うんちもしない。買い物から帰って「ただいま」と言うと、う〜ん、と羽を伸ばしたあと、ぽたりと大型の排泄物を落とす。「どこへ行っていたんだよ」という顔をしてご飯をつつき始めるのが常だ。長時間留守にする時は、夕方くらいになってしかたなく食事しているようだ。うんちの数は明らかに少ない。

きょろちゃんはお父さんがあまり好きではない。お父さんがそばを通っただけでわざわざ座敷牢の扉まで降りてきて、それをくちばしではさんでガタガタとゆすり、あっちへ行くまで威嚇し続ける。顔を近づけようものならたいへんである。私にはついぞ見せたことのない憎々しい目つきをして、ヒゲや鼻に咬みつこうとする。

しかしお父さんはインコのめんどうをよくみる。休日には自らを「お掃除当番」と称し、うれしそうに座敷牢を掃除し、ご飯の食べかすもきちんと取り除く。また、私と違って冠羽(かんう。頭のてっぺんに生えた細長い羽)をつまんで引っ張ったり、長い尻尾の羽をつかんで足止めしたりといったいぢわるは決してしない。なのにああまで嫌われて、たいへんかわいそうである。

ぐうたらな私はきょうもまた昼寝をしてしまった。座敷牢に枕を並べると、きょろちゃんは上の止まり木からそそくさと降りてきて、補助用の小さな餌の器の上で羽を膨らませ、いっしょにお昼寝する態勢に入る。檻[おり]に顔をくっつけて横になると、夏だというのにきょろちゃんもそこに寄りかかる。胸の羽が頬にくすぐったい。時々、目の下のそばかすを餌だと思ってついばむので、角度に注意して眠らなくてはならない。

きょろちゃんたちオカメインコの原産地はオーストラリアだそうだ。好物や羽の様子などから推測すると、だいぶ乾燥した場所に生息しているのではないかと思うのだが、本当のところはどうか知らない。

動物をカゴに押し込めて過保護に飼育しているが、ぜひ一度、生息地へ出かけて行って、自然のままに生活している野性のきょろちゃんを観察してみたいものだ。

colo Amatsu
July, 1997
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