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 もえさん 

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1993年も暮れのある日、テレビでニュースを見ていたら、京都市内のどこかのマンションのベランダに隕石が落ち、観葉植物の鉢を割った、と報じていた。マンションの住人が拾ったのは小さな隕石で、鑑定のため、東京の国立科学博物館へ移されたということだった。

だいぶ前のニュースなので、名称などの記憶に自信がないが、時期だけははっきりしている。なぜかというと、その半月ほどあとに我が家で暮らすことになった「もえさん」と、例の隕石とは関連があるのではないか、と密かに信じているからだ。

東京・町田市内のデパートのペット売り場で、コザクラ(小桜)インコの改良種である、ヤエザクラ(八重桜)を1羽かどわかそうと、ひなの入った箱を物色していた。

ヤエザクラのひなは3羽いて、どれもまだ、腰のあたりに綿毛のような、ふわふわした灰色のうぶ毛をまとっていた。3羽はコピーなのか、兄弟なのか、区別がまったくつかないくらいよく似ていて、一列横隊になって、狭い箱の中をもたもたと行ったり来たりしている。

店員さんに「どれにしますか」と聞かれても、どれも同じ風貌なので、1羽に決めかねていた。指でつつくと、3羽が3羽、そろいもそろって箱の隅に逃げ込み、頭をすり寄せて体の下に入れてしまった。

すると箱の一角に、何やら毛糸玉でも詰まっているかのようで、ひな鳥が3羽固まっているとは、とうてい思えない。まさに鉄の結束である。この中から1羽だけかどわかして行ったら、かどわかされた1羽も、残された2羽も、さぞかし寂しい思いをするだろう。だからといって、3羽分の身代金を払うだけの余裕はなかった。

うーん、困った、困った、とさんざん悩んでいると、真ん中の1羽がそろりと頭を上げて、こっちを見た。箱の中をじっとのぞき込んでいる私と視線が合うと、あわてて毛糸玉の中に首を引っ込めた。「この子」。身代金を払うと、残された2羽が恐慌を来しているのに後ろ髪を引かれながら、私は急ぎ足で売り場をあとにした。

もえさんは今年4歳になる。今にして思えば、無理をしてでも、3羽とも連れ帰ればよかったと、心残りである。というのも、もえさんはお友達と遊ぶのが大好きらしく、外でスズメなどの野鳥が鳴いていると、大声を張り上げて呼ぶ。この季節は、ツバメが窓のすぐ近くの電線に止まって、ちゅるちゅるとさかんにさえずるので、恋しくてしかたないらしい。

隣の座敷牢には、オカメインコのきょろちゃんがいるのだが、もえさんにはほとんど関心を示さない。

子どものころのもえさんには、ヒゲがあった。オレンジ色の大きなくちばしの付け根付近、つまり鼻のすぐ下5mmほどが、真っ黒だったのだ。それが成長するにつれ、消失してしまった。まだ名前が決まっていなかったとき、ヒゲ模様が俳優の三木のり平さんみたいだったので、「のり平」と命名しようかと考えたが、ヒゲがすっかりなくなってしまったので、もし「のり平」にしていたら、今ごろはきっと後悔していただろう。

それではなぜ「もえさん」かというと、ほぼ全身が緑色だから、という単純な理由である。「緑、萌え出る」の「もえ」だ。「さん」という敬称は、ちょっとアブナい人に対して、敬遠の思いを込めて呼ぶ、あのノリである。大きなくちばしの射程距離内にうっかり入れば、まずまちがいなく皮は破れ、当たり所が悪いと、血が吹き出るほどのケガを負わされる。お父さんは「愛を確かめるため」と称して、毎朝のようにもえさんに小指を咬んでもらっては、血をにじませている。

もえさんには、どこか不思議なところがある。ふだんは落ち着きがなく、独房の中で激しく運動しているのに、時として何か言いたそうに、じっと私の顔を見つめ続けるのだ。

きょろちゃんにもそうしたところはあるが、「どうしたの?」と聞くと、首を上下に振って、甘えた声で鳴くところをみると、私に対して一種の愛情表現をしているらしい。しかしもえさんに同じことを聞いても、こちらが恥ずかしくなるほど見つめているだけである。そうしたもえさんの様子は、その容姿とあいまって不可思議で、どこか別の天体からやって来た、地球外生命みたいな印象を抱く。

もえさんが生まれたと思われる、ちょうどそのころ、京都のマンションに隕石が落ちたではないか。そもそもあれは隕石などではなく、隕石と見えた卵だったのかもしれない。

もえさんがどうやって国立科学博物館を抜け出して、町田市のデパートにたどり着き、ヤエザクラの姿を借りて、仲良したちに紛れ込んだのかは、依然として大きなナゾであるが。

しかし、最近火星で生命の痕跡らしきものが見つかったと発表された時、NASAの偉いさんかだれかが、「緑色の小人ではありませんよ」と話し、会場を沸かせていた。緑色の小人!!やはりNASAは知っていたのだ、と私は確信している。

colo Amatsu
July, 1997
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