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陽気に物見遊山
出発の数日前になって、携帯用GPSを持っていきたくなった。今回の旅行では、標高の高い所を遠くまで移動することになっていたので、気圧高度計のついた、米国ガーミン社のeTrex Vista HCxという機種に決めた。データ保存用に外部メモリが使える点もいい。日本語版は予算的に難しいため、英語版が欲しかったのだが、一般的な方法では入手できないとわかり、ダメでもともと、現地調達することにした。 まず、ペルーへの乗り継ぎ地である、米国のヒューストン空港でトライ。電子機器店で「携帯用のGPSはありますか?」と聞いてみた。だが、店員さんが見せてくれたのは、四角いディスプレイの、カーナビに似た携帯用GPSだった。ダメだろうなと思いつつ、「これ、あります?」と、プリントアウトしてきた機種を見せたら、「おう、ガーミン!」と目を見張ったあと、「それはないですねぇ」。 その場はすごすごと搭乗口へ引き下がったが、まだ先がある。「次はクスコじゃ」と決心もあらたに気合いを入れ直していた、ちょうどその時、テレビ画面にガーミン社のカーナビのコマーシャルが流れた。むか〜〜〜っ。
ヒューストン空港でフラれた18時間後、クスコに到着して荷物も解かず、GPS探しに飛び出した(高山病のことを考えると、高地到着直後に動き回るなんて厳禁なのに)。クスコには、数日かけていにしえのインカ道をマチュピチュまで歩く、「インカ・トレッキング」という人気のツアーがあり、トレッカー向けに携帯用GPSを扱うお店もあるのでは、と期待していたからだ。 デジカメを扱う大きな写真店数軒でフラれたあと、アウトドア用品店に入ったら、親切な店員さんが地図にマルをつけながら、「ここならきっとありますよ」と、品ぞろえクスコいちの電気店を詳しく教えてくれた。 そのお店にガーミンの携帯用GPSはあった。あったけれどもひとつ前のバージョンで、外部メモリ用のスロットも高度計もコンパスもなく、しかも、お値段は最新版のVista HCxより100ドル以上高い。この際、「安さバクハツ!」はムリでも、充実機能の最新版が欲しいなぁ・・・。 結局、GPSはあきらめてホテルへと引き返した。ああ、くたびれた。 深い谷間は人工衛星からの信号が届きにくく、GPSがうまく動作しないことがあるっていうから、首尾よく入手できても、高い山の影になっている聖なる谷じゃ使えなかったかもしれないじゃない、とかナンとか、イソップ童話の「きつねとぶどう」的認知不協和理論で欲求不満をごまかしつつも、Vista HCxから取り出したデータをGoogle Earthで眺める楽しみが消えてしまったことを、いく度となく残念に思ったのだった。
クスコは東京の3月上旬くらいの気温で、特に朝夕は足元が冷えるため、奮発して、10ソーレス(380円)もするアルパカ毛の靴下を買った。ふわふわ・むくむくの手触りで、ホテルに帰ってさっそくはいてみたら、暖かいこと、この上ない。ところが、はいて2時間かそこらで、片方の爪先がお味噌汁のアサリのようにぱっくり開き、足指が5本ともあらわになってしまった。あらら〜。ま、こんなもんか。爪先を隠すのに少々工夫が要ったが、お部屋ではくだけならどうにか間に合った。 さて。後日、とある遺跡を見学したあと、バスに戻って座席に着いたら、隣の席の奥さんがうれしそ〜な顔をしながら、待ってましたとばかり、いきなり灰色のセーターを私の顔になすりつけてきた。セーターはふわふわ・むくむくで、肌触りがとてもいい。 奥さんがさかんに何か言っているのだが、私にはさっぱりわからないので、奥さんとおしゃべりしていた男性に通訳をお願いした。男性の英語を、奥さんの喜びそのままに日本語に直すと、「この紳士物のセーターね、そこの露店で買ったんだけど、アルパカなのに、たった20ソーレス(760円)だったのよ、信じられないわっ!!」だろうか。私も思わずびっくりして、奥さんに「20ソーレス?!」と聞き返したら、「そうよ、ほら、ほら!」と、またしてもセーターで顔じゅうなでられた。 ふわふわ・むくむくを肌に心地よく感じながらも、足を通して2時間後にアサリ開きした、あのアルパカ毛靴下のことを、つい、思い出してしまった。そして、ほくほく顔の奥さんに申し訳なさを感じつつも、想像は悪い方へと傾いていき、このセーターも、着て2時間後には片袖がポロリと落ちるのではなかろうか・・・とも。
おみやげ屋さんでもレストランでも、ペルーのお店には釣り銭の準備があまりない。お釣りをもらおうとすると、しばしば店員さんは両替先を求めてご近所を奔走し、硬貨を手に、息を切らせて戻ってくる。特にめんどうな様子もないところを見ると、こうしたことは日常茶飯事で、お釣りが必要になるたびに、そこら辺を走り回っているのだろう。 さて、ATMでお金を引き出すと、当然のことながらお札が出てくる。50ソーレス、100ソーレスの高額紙幣より、上述のように、ちょっとした買い物には硬貨の方が断然便利なので、両替しに銀行へ行った。 カウンターで100ソーレス札を1枚出し、「5ソーレス硬貨20枚に替えてください」とお願いしたら、「5ソーレスが不足しているので、2ソーレスでもいいですか?」と聞かれた。小さい額なら構わないだろうと、特に深く考えないで「いいですよ」と答えた。 行員さんから「はい、どうぞ」と出されたトレーを見て、びっくりした。硬貨の山がいくつもあったからだ。続いて、「よかったら、お使いください」と、硬貨が入っていた行内用の厚いポリ袋もくれた。 袋にお金を移して持ち上げたら、ずううぅんと重い。それもそのはず、2ソーレス玉が50枚も入っているのだから。にわかに大金持ちになった気分で、高山病の頭痛もぐんと和らいだのであった。正確には大金持ちではなく、大銭持ちだろうけれど。
左の写真を撮った直後のことだ。写真の左端に写っている、顔だけ白いリャマに近づいていったら、リャマも顔を突き出して、フンフン鼻を鳴らしながら、私の顔の匂いをかぎ回った。人間のお母さん(リャマの首に手を置いている人)いわく、「アナタのことが好きなのよ」。う〜ん・・・。 前回のクスコ観光では、リャマにブラウスの襟を引っ張られ、もう少しで柵の鉄条網の餌食になるところだったし、メキシコのテオティワカンでは、ウマにジャケットを引っ張られた。いずれの「事件」でもみごとに共通しているのが、まず、手始めに顔じゅうかぎ回される、ということだ。何かを匂いで判断しているようだが、それではいったい何を判断しているのか、私がいったい何だというのか、そのあたりの事情をぜひ知りたい。いや、知らねばならぬ。
プーノでのこと。何度か利用したインターネット・カフェが定休日で、やむなくほかのお店に行くことになった。といっても心当たりはなく、しばらくリマ通りをうろうろしたあと、脇に伸びる小道の先に、ようやくINTERNETの看板を1つ見つけた。 広い店内にはモニタがたくさん見えるが、古い木の机に乗って整然と並んでいるので、まるで学校のような雰囲気だった。中南米によくある、オフィスのようなインターネット・カフェとは、趣がまったく違っていた。 お客さんは、部屋のいちばん奥に地元の人が3人いるだけだった。家族連れらしく、1台のマシンの前に額を寄せ、窮屈そうに画面を眺めている。天井の電灯がついているのはそこだけなので、入り口から少し入るとあたりはもう薄暗い。 日本でいえば、小学3、4年生くらいの女の子がカウンターから出てきて、家族連れの隣に私を案内してくれたのだが、奥へと進む時、見たことのある絵が目に飛び込んできた。長年、Linuxのマスコット・キャラクターをつとめている、ペンギンくんの絵の切り抜きだった。机にもマシンにも同じものがぺたぺたと貼ってあり、1とか2とか、白いお腹にマシン番号が書いてある。振り返ると、カウンターにも入り口の扉にも貼ってあった。 おおっ、このネット・カフェのご主人は、Linuxの手練(てだれ)ではなかろうか、もしかしたらX11かもしれないゾと、密かに、しかし、大いに期待したのだが、女の子が「はい、ここね」と電源をONしたモニタには、Windows XPのロゴが浮かび上がった。くくく。 さて、ブラウザを立ち上げて、GoogleのメールツールGmailを開いたのだが、ふいに画面の動きが止まった。しばらく待っても変化がない。ネットワーク以外は正常のようなので、接続が切れたのだろうと思い、もう少し待ってみたが、回復の気配はまったくなかった。しかたないので、カウンターに向かって「ぽる・ふぁぼ〜る!」(ちょっとお願い!)と声をかけた。すると、さっきの女の子が飛んできた。 あなどることなかれ、ペルーでは学童とはいえ、一人前の職業人を兼ねていることは、現実としてそう珍しくない。私はモニタを指さしながら、「インタネット・ノ・アクセス」(つながらないよ)と告げた。すると、女の子はキーボードに手を伸ばし、小さな指で力いっぱいPF4キーを連打し始めた。お店じゅうにバチバチバチッとキーを叩く音が響く。キーボードもガタガタと大震れした。マシンが壊れないか、こっちは気が気ではない。 だが、壊れるどころか、あらら不思議、ガンコに固まっていたGmailのログイン画面が、しずしずと動き始めたではないか。驚き混じり、「おおっ、ぐらしゃーす、せにょり〜た!」(ありがとー!)と女の子の顔を見上げたら、にっと笑ってカウンターに走っていった。 その直後、今度は隣のマシンから女の子を呼ぶ声が上がった。女の子が到着すると、再びあのキー連打の爆音が鳴り響き、しばらくして、何事もなかったように女の子は戻っていった。 すごいエンジニアがいたものだ。Windowsでは、PF4キーにネットワーク接続復活の呪文が割り当てられているのだろうか?電気器具の具合が悪い時、ちょっとひっぱたけば直る、なんて荒療治もモノによっては有効だが、繊細なコンピュータちゃんを、ちょっとどころか、びしばしひっぱたいて直してしまうとは。 お店のあちこちにLinuxペンギンくんがいるところをみると、女の子のお父さんとか、お兄ちゃん、お姉ちゃんがLinuxファンなのかもしれない。将来はその度胸でもって、女の子にもぜひLinux道を邁進してほしいものだ。そうすれば、PF4キー速射砲も不要になるだろう・・・たぶん。 ![]() | ||||||