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聖なる谷 クスコを出て、山道を走ること1時間足らず。展望台に立つと、眼下に「聖なる谷」が始まっていた。
温暖な気候と肥沃な土に恵まれた谷が、ピサックからオヤンタイタンボまで、東西60kmに渡って広がっている。ユカイ谷、別名「聖なる谷」だ。聖なる川ウィルカマーユ(ビルカノータ川)が刻んだこの谷は、北は5,000mを超える峰々と、南はチンチェーロの村に代表される、美しい田園地帯にいだかれている。インカはこの谷に大きな愛着を感じて直轄とし、代々の王は、それぞれ別荘を建てては保養に訪れたという。
聖なる谷の観光は、ピサックの青空市でスタートした。花よりだんご。食べ物の写真でまとめてみた。
太陽の動きと、山や岩など周囲の景観とを組み合わせて、インカは壮大なカレンダーを考案した。冬至の朝、どこそこの岩の上から日が昇るとか、春分の日にはどこそこの石の影が日時計の役割を果たすといった話が、オヤンタイタンボにはたくさんある。 オヤンタイタンボは聖地でもある。丘のふもとには水を祭った神殿が、丘の頂には太陽神殿が建っている。観光の一番の目玉は、丘のてっぺんの太陽神殿なのだが、海抜2,700mの薄い空気の中、急な階段を延々と上るのはかなり厳しい。踊り場でひと休みするたびに、同じグループの人たちと「え〜、まだあるの〜?」と、こっそりグチをささやき合っていた。うっかり声に出してガイド氏の耳に入りでもしたら、「なに?リタイアしたい?てっぺんに行ったらイケニエだっ!」との、血も涙もない「激励」が飛んでくるからだ。
聖なる谷の南側は広大な丘陵地だ。緑濃い畑、金色に染まった収穫間近の畑、刈り取りが終わって、三角の積みわらが並んだ畑。畑の表情は少しずつ違っている。 これは、土地を小さい区画に区切ってグループ分けし、グループごとに同じ作物を育てることによって、最小限の環境負担で最大限の収穫を得ようという、インカが開発した農業技術なのだそうだ。遠くからこうした畑を眺めると、右の写真の湖の奥のように、地面をパッチワークで覆ったみたいに見える。 畑ではトウモロコシ、ジャガイモ、ソラマメ、オオムギ、キヌア(アミノ酸が豊富なアンデス産の穀物)などが栽培されている。 田園に囲まれた、ユーカリ林がひときわ濃い丘に、チンチェーロの村がある。インカの時代には太陽神殿が建っていたが、スペイン人によって神殿は取り壊され、代わりに教会が建てられた。
アンデスでは、聖なる山には「アプ」という精霊が住むと信じられているが、精霊はどんな小さな山にも住んでいるのではないだろうか。山に限らず、聖なる谷の美しさは、ありとあらゆる場所に精霊が宿っていることを確信させる。
夕方5時半。チンチェーロを離れ、クスコへの帰途についた。太陽はすでに山の向こうに低く隠れて、冷涼な空気はますます冷たさを増していた。それまで雲に覆われていて、なかなか見えなかったワカイ・ウィルカが、ようやくほんの少しだけ頂を現した。この谷に立ち、この山を目にして初めて、「ワカイ・ウィルカ=太陽の涙」というケチュア語の響きが実感できた。
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