ドウロ渓谷観光列車2 観光列車の出発時刻が近づいたので、午後3時少し前、レグアの駅に戻った。ホームに入ると、赤い屋根瓦の下に木造の客車が見えた。今回の旅行が決まって以来、ずっと楽しみにしていた観光列車だった。 しかし、蒸気機関車のはずが、先頭の車両から煙が出ていないので「おや?」と思った。間もなく出発なのだから、煙突がもくもくしていても不思議ではない。それもそのはず、なんと、ディーゼル機関車だった。蒸気機関車に乗るのをずっと楽しみにしていたので、正直なところ、かなりがっかりした。いろいろな観光案内で「蒸気機関車がドウロ渓谷を行く」と紹介されていたし、2012年に撮ったという、蒸気機関車が牽引する観光列車の写真も見た。それが去年なのか今年なのかわからないが、ディーゼル機関車に代わったらしい。 さて、濃い空色のディーゼル機関車は真新しく、金色のエンブレムもぴかぴかで、特別仕立てであることがひと目でわかった。「ぽっぽは煙を上げて爆進する姿がかっこいいんだから、乗っちゃったら見られないぞう」とかなんとか、イソップ童話の「狐と葡萄」的な負け惜しみを言う必要なんてこれっぽっちもないのだ(言っている?)。 【CPドウロ渓谷観光列車の旅程】 行き:レグア 15:22 -> ピニャン15分間停車 -> トゥア 16:34 約50分間停車 レグアを出発 機関車のあとに金属製の客車が2両、木造の客車が3両続いていた。私たちの席は金属製の客車だったが、内側は床も壁も天井も木製だった。
ピニャン駅 レグアを出て1時間近く。15分間の小休止のため、列車はピニャン駅に停車した。ホームに降りると、午後の熱風が枝いっぱい実ったオレンジを揺さぶっていた。
トゥア駅 午後4時半、折り返し地点のトゥア駅に到着した。列車が止まるやいなや楽隊がホームに降り、演奏しながら歩き始めた。アナウンスによると、駅舎のそばの特産品売り場に向かうようだ。アコーディオンの楽しげな音色に誘われて、私たちも他の乗客に混じってぞろぞろと楽隊のあとについて行った。ところが、ふと振り返ると、敷地の片隅に蒸気機関車がとまっているのを発見し、地元のンまいモンそっちのけでぽっぽに突進した。 紅白まだらに錆び上がった、年季の入ったぽっぽだった。現役を退いてどのくらいたつのかわからないが、眺めていると、今にも煙突からぽーっと煙を吹き上げて動き出しそうな気がした。 ぽっぽ見たさの余り、特産品買い出しツアーを離脱したのは私だけではなかった。気がつくと、うちのおとうさんが近くでぽっぽを写していたし、背の高い西洋人の男性も熱心に一眼レフを向けていた。
そろそろ特産品が気になり出したので、お店に行こうとしたら、今度は別の蒸気機関車が目に止まった。当然、またしても地元のンまいモンはお預けである。場所は駅舎の左手(西)で、先ほどの機関車のように野ざらしではなく、屋根の下、木造の古い客車といっしょに金網で囲まれていた。
蒸気機関車に乗れなかったのは残念だが、レグアから合計3台も間近で見ることができて、すっかり満足した。遅れ馳せながら特産品売り場をうろついていたら、スタンドで休憩していた鉄道の保守係のお兄さんから、「日本人でしょ?」と尋ねられた。「うん、日本人。」と答えたはいいけれど、はて、どうしておわかりで?しかし、お兄さんはにやにやしているばかり。あとで気づいたのだが、カメラを抱えて蒸気機関車にまとわりつく姿を目撃されたからに違いないのだ。 ドウロ川とぶどう畑 レグアからトゥアは距離にして約30km。ドウロ川に沿って両駅間を往復したが、窓の外には絶えずぶどう畑が広がっていた。時々、糸杉に囲まれた、窓のほとんどない白壁の大きなワイン貯蔵庫も見えた。 ドウロ川上流で収穫されるぶどうのほとんどはポルトワインになると聞く。ポルトワインの醸造地であるガイアの貯蔵庫群の樽を満たすには、これほど広大なぶどう畑でないとやはり足りないだろう。
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