トップページ旅路の記

テオティワカン

羽毛ある蛇のピラミッド
Feathered Serpent Pyramid

羽毛ある蛇のピラミッド

テオティワカンの南東部に、砦が広場を取り囲んでいるような、「シウダデーラ」と呼ばれる建造物がある。このスペイン語の名前は、まさに「城砦」を意味している。シウダデーラの内側に、今回のメキシコ旅行で一番見てみたかった、羽毛ある蛇のピラミッドがある。

テオティワカンの略地図
「テオティワカン」もくじ

ピラミッド行脚

自由時間はわずか1時間だった。羽毛ある蛇のピラミッドが、このあとの見学コースに入っているかどうか、ツアーガイドさんに聞きそびれてしまった私は、どうしようか迷っていても仕方ないので、羽毛ある蛇のピラミッドまで歩くことに決めた。ケガで片足が思うように動かせないので、たっぷり20分はかかりそうだったが、「地球の裏側までやって来て、2キロ足らずの距離がなんなのさ!」と己れを叱咤激励しながら、南に向かって死者の道をひたすら急いだ。朝方の雨で蒸し暑いうえ、時おり雲が切れると、日差しがじりじりと痛かった。

日ごろの運動不足が祟り、太陽のピラミッドを通り過ぎるころには、心臓がドキドキはね上がっていた。しかし、なんとも無情なことに、その先の死者の道には深い起伏が連続し、もっと無情なことに、それが急勾配の階段になっていた。「ピラミッドに行き着く前に行き倒れになったら、文字通り『死者の道』だね」。つまらない冗談だけはやめられないのであった。

結局、月の広場からシウダデーラの正面まで25分かかった。汗だくだった。集合時間まで残り35分しかない。呼吸を整えるひまもなく、直ちにシウダデーラの奥へと進んだ。祭壇のような低い段の向こうに、アドサダ(ピラミッドの正面に追加された構造物)がそびえ立っていて、「またしても階段・・・」と泣きたくなったが、難行苦行もそれが最後だった。気力を振り絞ってアドサダのてっぺんに這い上がると、羽毛ある蛇のピラミッドがすぐそこにあった。

羽毛ある蛇のピラミッド概略

シウダデーラ・北の段羽毛ある蛇のピラミッドのアドサダ
↑シウダデーラの北の段↑手前は祭壇のような段。階段のような大きな構造物は、ピラミッドの正面に付設された「アドサダ」。奥に、羽毛ある蛇のピラミッドのてっぺんが少しだけ見えている。

シウダデーラも羽毛ある蛇のピラミッドも西暦200年ごろ造られ、4世紀に入って、ピラミッドの正面(ピラミッドの西面にあたる)にアドサダが追加された。アドサダは月のピラミッドにもあるが、それがどんな意義や機能を持った構造物なのか、現在でもまだよくわかっていないという。

20世紀初め、調査のため、アドサダのうち、ピラミッドと隣接した部分を大きく削り取ったところ、彫刻で飾られたピラミッドの壁面が現れた。7世紀に何者かによって破壊される前、羽毛ある蛇のピラミッドは、4つの面すべてが彫刻で飾られていたことが、その後の調査でわかった。他の面はすっかり壊されてしまったのに、アドサダがあったおかげで、正面だけは破壊を免れたのだった。

ピラミッドの内部から多数の埋葬場所が見つかり、エリート階級の人物やいけにえとみられる遺骨が、130体以上発見されたが、実際に埋葬されている人数は、200人以上にのぼるだろうと推測されている。黒曜石でできた刃物や彫像、緑玉や貝殻を加工した装身具などが、人骨とともに発見された。羽毛ある蛇のピラミッドから見つかった品々は、質、量ともに、テオティワカンで最も豪華だそうだ。

羽毛ある蛇のピラミッドは、「ケツァルコアトルのピラミッド」とも呼ばれる。ケツァルコアトルとは、風と嵐の神で、羽毛の生えた蛇の姿で表現される。「ケツァル」は「羽毛の生えた」を、「コアトル」は「蛇」を意味するナワトル語(アステカの公用語)だが、羽毛ある蛇は、アステカよりもはるか昔から行われてきた大地崇拝の神々の一人といわれている。

壁面の彫刻

階段の北側の壁階段の南側の壁
↑階段の北側の壁↑階段の南側の壁。白い覆いがかけられ、ただ今修復中。

階段の両端や、ピラミッドの壁面に付いている、大きな頭の高浮き彫りがおもしろい。現在、羽毛ある蛇のピラミッドは修復中なので、アドサダの上から見学するのだが、彫刻がどんな表情をしているのか、もっと近くで眺めたくなる。

このピラミッドの名前にもなった、首の周りに羽毛の生えた「羽毛ある蛇」が、正面を向いている(下の写真・光の当たっている大きな彫刻)。その脇から、やはり羽毛の生えた胴体が伸び、途中、雨の神トラロックの頭を乗せて(下の写真・左の角張った彫刻)、最後はしっぽで終わっている。このしっぽは、ガラガラヘビのしっぽと同じガラガラになっている。

壁面の高浮き彫り

羽毛ある蛇やトラロックの高浮き彫り以外にも、体をくねらせ、横を向いた羽毛ある蛇や、貝殻などの浮き彫りが見られる。貝殻はホラガイのような巻き貝もあれば、ホタテに似た二枚貝もあり、どれも本物そっくりだ。

横向きの羽毛ある蛇高浮き彫りの羽毛ある蛇
↑横向きの羽毛ある蛇↑高浮き彫りの羽毛ある蛇
巻き貝と二枚貝の浮き彫り雨の神「トラロック」
↑羽毛ある蛇の胴体の下の、巻き貝と二枚貝の浮き彫り。蛇が大事に抱えているようにも見える。↑雨の神トラロック。つい、トウモロコシを想像してしまうお肌。

ところで、当「テオティワカン」旅行記で見出しに使っている飾りの絵は、このピラミッドのトラロックを線画にしたものである。神様なんだけど、ちょっと漫画ちっく。

ピラミッド行脚・後記

名残惜しく思いつつも、羽毛ある蛇のピラミッドをあとにした。集合場所は、自由時間の始まった月の広場ではなく、太陽のピラミッドの正面の駐車場だった。月の広場まで戻ることを思えばかなり近いとはいえ、「魔の起伏越え」は来た時以上に厳しかった。何度も足がもつれたが(とほほ)、どうにか約束の時間に間に合った。

ツアーの車が動き出すやいなや、ガイドさんが言った。「次は羽毛ある蛇のピラミッドへ行きます」。それを聞いて、「やっぱり行くんだ・・・ちゃんと聞いておけばよかった」と、首ががっくり前に倒れた。

もう一度、羽毛ある蛇のピラミッドを見たい気持ちもあったが、くたびれ果てていたので、アドサダには登らず、一人、ツアーグループの帰りを待つことにした。道端に腰を下ろすと、物売りさんの吹く鳥のさえずりのような土笛の音が、風に乗って遠くから聞こえてきた。

「テオティワカン」もくじ

トップページ旅路の記