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旧森林軌道 不動の滝で、滝の続く渓流沿いの道が終わった。山の斜面に設けられた階段を上り、「旧森林軌道」と呼ばれる道へと向かった。渓谷入り口に続く帰り道でもある。 1933年から68年までこの道にはトロッコが通い、付近一帯から切り出した木材を、中央線の塩山(えんざん)駅まで運んでいたそうだ。今でも線路が残っていて、所どころ、地面から顔を出している。 ブレーキひとつでトロッコを操る危険な仕事に悲劇はつきものだったようで、「作業員のだれそれが谷底に転落して大ケガをした」といった話が案内板に書かれていた。彦一さんが転落した場所は「ひこいっちゃんころばし」、猪虎狸(いこり)さんが転落した場所は「いこりころばし」というふうに、事故現場には名前までついている。 旧森林軌道は線路が敷かれていただけあって平坦で、道幅も広く、歩きやすい。帰り道が緩い下り坂なのは何よりうれしかった。山肌に大きな切れ込みがある所には、鉄製の頑丈な橋が架けられるなど、安全に歩けるよう整備されている。ただ、崖側には柵がなく、のぞき込むのも恐ろしい「ひえぇ」な急斜面なので、いくら歩きやすいといっても、決してよそ見はできなかった。 それまで歩いてきた渓流沿いの道と異なり、旧森林軌道は沢から高い位置にある。水音がまったくといっていいほど聞こえないのは、少し寂しかった。
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